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Article: ハイカー根津のHIKER'S DELIGHT Vol.1「ハイキングのすすめ」

ハイカー根津のHIKER'S DELIGHT Vol.1「ハイキングのすすめ」

私たちSTRIDE LABは「すべての一歩を健康に。」というパーパスの下、さまざまなアクティビティや商品を通じて、皆様の生活や日常をより豊かにするお手伝いをしてきました。

そして今回、新たな挑戦として「MAGAZINE」という連載コンテンツを立ち上げます。

この連載は、単に商品を届けるだけではなく、多彩なテーマや視点を通じて、新しい発見や知識を共有する場を目指しています。アウトドアにまつわる話題はもちろんのこと、将来的にはもっと自由なテーマや角度から、日常を彩る情報やアイデアをお届けする場として成長していきたいと考えています。

その記念すべき第1回として、アウトドアライターとして活躍されている根津貴央氏によるハイキングにまつわる連載がスタートします。

アメリカのPCT(パシフィッククレストトレイル)を始め、世界各地のトレイルを歩いてきた根津氏だからこそ伝えられる、山歩きの魅力や新たな発見をお届けしていきます。

「山で歩こう、山で寝よう。」

そんなシンプルだけれど奥深い楽しさを、STRIDE LABらしいアプローチで皆様と分かち合いたいと考えています。この連載が、アウトドアを楽しむきっかけや新たな発見につながることを願っています。

ぜひお楽しみください!

僕はハイキングが好きだ。
そんな、僕にとって大事なハイキングについて書く連載が、今回からスタートした。

STRIDE LAB読者であれば、ハイキングを知らない、ハイキングという言葉すら聞いたことがない、という人はいないだろう。でも、そもそもどこからどこまでがハイキングなのか? 登山とは違うのか? など、ハイキングについて曖昧な印象を持っている人も多いはず。

そこでまずは一般論も含めて、僕が考えるハイキングについて説明したいと思う。

ハイキングは山や自然の中を歩く行為である。登山と異なるのかと言えば、大差はないが差はある。ちょっとややこしいのは、「登山」が日本語で、「ハイキング」が英語であり、日本においてその両者が混在していることだ。

登山を英語にすると、マウンテニアリング (mountaineering) やマウンテンクライミング(mountain climbing)と訳されるのだが、いずれも手足を使って山をよじ登る行為であり、アイゼンやピッケル、ハーネス、ロープなどの登攀具を用いるような山登りのことを意味する。でも、日本でいう登山は、もちろんそれらの行為も含まれてはいるのだが、大抵は二足歩行で登攀具を用いない山登りという文脈で使用される(紹介される)ことが多い。そしてそういう山登りは、英語でハイキングという。

つまり、日本における登山の多くはハイキングなのだ。高尾山の登山はもちろん、無雪期における八ヶ岳や北アルプスなどの登山も、その多くはハイキングの範疇なのだ。でも日本においては、その線引きを明確にせずに、登山とハイキングという言葉が用いられている。

それについてあーだこーだ言って議論をして突き詰めたいわけではないので、それはそれとして置いておくとして、じゃあ僕は、なぜあえてハイキングが好きだと言うのか。それは、その2つの行為について下記のような解釈をしているからだ。

登山:登頂を目指す行為
ハイキング:登頂を目指すかどうかに関わらず、自然の中を歩く行為

これは持論というか一般論と言っても差し支えないと思う。登山に行くときに「今日は○○山の7号目まで登山しにいこう」なんてことは基本的にないはずだ。天候や体力の問題で結果的に途中で下山することはあれど、前提としては登頂を目指す行為である。

一方でハイキングは、登頂することもあるが、山頂を通らないハイキングコースやトレイルを歩くこともよくある。登頂の有無は関係ないのである。

決してそれぞれの行為に優劣があるわけではなく、単純に行為としての差異があるということだ。別にどっちでもよくない? そんな細かいこと気にしなくていいのでは? という意見もあるかもしれない。でも、僕は気になるし、分けるべきだとも思っている。それは、実際に登山とハイキングには、行為としてだけではなく、楽しみ方の違いもあるからだ。

僕は登山もする。そもそもハイキングという行為を意識する前は、登山をしていたし、登山を通じて山や自然が好きになった。たとえば友人と日本百名山のどこかに登りに行くとなれば、ハイキングではなく登山という認識で臨む。要は、登頂の達成感や満足感、頂上から眺める景色などを期待して登るのである。それが登山ならではの魅力だからだ。

これは僕がハイキングをするときには期待していない要素である。ハイキングに行くときは、ルートは計画するものの登頂のような明確なゴール (目的地)は設定しない。家に帰ることを考えて交通の便の良い終点は設定するがそれは決してゴール(目的地)ではなく、帰るための手段でしかない。自分の気分次第で、歩きながら別の終点にすることもあるし、途中で引き返してスタート地点に戻ってくることもある。

この “自由度”が、僕がハイキングを好きな理由でもある。自然の中を自然を味わいながら自由にさまよう心地良さ、絶景の有無に関係なく自然の中を歩く楽しさ、お気に入りのスポットがあればいつまでだってそこに居られる贅沢さ(なんなら野営してもいい)。ハイキングは、ゴールすることではなく、途上が楽しい行為なのだ。

僕は今年の6月末に、これまで長年住んだ東京を離れて福岡に引っ越した。せっかく九州に来たのだからと、さっそく前々から気になっていた脊梁山地 (宮崎県と熊本県の県境にある山群)に足を運んだ。もちろんハイキングのために、である。

自分の歩きたいルートを考え、野営込みで2泊3日。このあたりはほぼ樹林帯だったが、誰もいないひっそりと静まりかえった樹林帯歩きは、この上なく楽しかった。良さそうなテント泊適地を見つけてそこで野営。起床も就寝も気の向くまま。たまたま山頂を通ることもあれば、迂回することもあった。何かに縛られることなく自由気ままに歩いた3日間のハイキングは、これぞハイキングという極上の時間だった。

こんな魅力あふれるハイキングを、山と自然に囲まれたこの日本で、もっと楽しむ人が増えたらいいなと僕は思っている。

ただ、1つだけ留意してほしいことを最後に書き記しておきたい。ハイキングは誰でもはじめられるけど、それなりの体力、知識、技術が必要になるということ。もちろんそれらは後付けで構わない。これは、たとえば趣味として音楽をやる際に、楽器を買ったとしても練習しないと上手くならないし楽しくならないのと一緒のことである。特にハイキングはフィールドが自然なので、ケガはもちろんときには命に関わることが起こる可能性もある。そういったリスクを回避するためにも、自分の身体能力を上げることは欠かせない。

連載第1回目の『ハイキングのすすめ』いかがだっただろうか? 今後この連載を通じて (だいたい月1回くらい更新する予定)、ハイキングにまつわるあれこれを紹介していくので、ぜひ2回目以降も読んでもらえると嬉しい。

根津 貴央Takahisa Nezu

ロング・ディスタンス・ハイキングをテーマにした文章を書き続けているライター。2012年にアメリカのロングトレイル『パシフィック・クレスト・トレイル(PCT)』を歩き、2014年からは仲間とともに『グレート・ヒマラヤ・トレイル(GHT)』を踏査するプロジェクト『GHT project』を立ち上げ、毎年ヒマラヤに足を運ぶ。著書に『ロングトレイルはじめました。』(誠文堂新光社)、『TRAIL ANGEL』(TRAILS)がある。